キーポイント:
- 日本の求人で残業に言及する割合は、2019年の約10%から2026年7月には26.6%へ上昇。伸びの中心は「残業なし」「ほとんどなし」「月20時間未満」といった好ましい開示であり、「20時間以上」への言及はまれである。この拡大は求人の職種構成の変化ではなく、企業の開示行動そのものの変化である。
- 開示は選択的である。公的統計でみた実残業時間が長い職種ほど、求人で残業に言及しない傾向が強い。トラックドライバーはその典型例である。
- 求人本文に平均残業時間を数字で記載する場合、その値は切りのよい数字に集中する。最も多いのは「月20時間」(記載のある求人の3分の1)で、記載の87%は20時間以下である。職種別の記載時間の順位は公的統計の実残業時間の順位と整合し、運送・ドライバーが最も長く、看護・介護・保育・医療技術が最も短い。
- 2024年4月の建設・自動車運転業務への規制適用拡大それ自体が、対象業種だけに残業の少なさや減少のアピールを強く促したとは確認されない。むしろ「2024年問題」がニュースとして機能し、規制の空気に敏感な企業や、残業の少なさを採用のアピール材料にしたい企業が、規制の適用の有無にかかわらず残業時間の言及を始めたとみられる。
労働時間規制の見直しをめぐる議論が続いています。以前の分析(縮む労働時間:労働時間の延長は有効か?)では、公的統計を用いて、2019年の働き方改革による残業上限規制の導入後に所定外労働時間が大きく減少したことを確認しました。では、労働時間の「実態」が変わる中で、企業が求職者に向けて発信する「情報」についてはどう変わったのでしょうか。本分析ではIndeed上の求人データを用いて、残業がどう開示されるようになったか、企業がどのくらいの残業時間を数字で示すようになったか、そして、職種間での残業の言及の違いについて見ていきます。
残業開示は広がっているが、増えているのは主に「良いニュース」
2019年1月時点で、残業に関する何らかの情報(残業なし、ほとんどなし、月平均時間の目安など)を明示する求人は約10%にとどまっていましたが、直近(2026年7月)では言及率は26.6%まで上昇しています。
ただし、重要なのはその中身です。伸びの中心は好ましい情報の開示によっています。「残業あり・月平均1〜20時間」は13.6%、「残業なし・原則定時」は8.7%、「ほとんどなし」は7.2%まで上昇しました。一方で、「月平均20時間以上」への言及は1.9%と、引き続き低水準にとどまっています。
正社員求人に限ると傾向はさらに顕著で、「1〜20時間」の表示は23.4%に達します。企業が開示するのは「良いニュース」であり、残業の少なさは賃金や休日と並ぶ採用上のアピール材料としていると考えられます。
これは、Indeed上の求人の職種構成が変わったからではありません。職種構成を2019年時点のシェアで固定しても、水準もトレンドもほとんど変わりません。つまり、同じ職種の中で、企業の開示行動そのものが変わったということです。

開示は「選択的」:残業が長い職種ほど沈黙する
正社員求人でみると、残業開示は実態を完全に映す鏡ではありません。Indeedの職種別の言及率を、「賃金構造基本統計調査」の職種別の実際の残業時間と照らし合わせると、明確な非対称性が見えてきます。実際の残業時間が長い職種ほど、求人で残業に言及しない傾向があるのです。
その典型がトラックドライバーです。2025年の実残業時間は月26〜33時間と主要職種の中で最も長い一方、求人で残業に言及している割合は15〜18%にとどまります。
この傾向は一つの職種に限りません。2020年から2025年まで、実残業時間と求人での残業言及率の相関は一貫してマイナスです。一方で、企業が残業時間帯を明示する場合、その内容は概ね実態と整合しています。「20時間以上」と表示する求人のシェアは、職種別の実残業時間とプラスの相関を持っています。
すなわち、企業は残業について書くときに、実態と異なることを書くわけではありません。一方で、実際の残業が長い職種ほど、残業について沈黙する傾向が見られます。残業の少なさを競う開示競争の裏で、残業が最も長い職種の情報は依然として不足していることが示唆されます。

数字で示す場合「月20時間」が典型的
ここまでは、求人が残業に何らかの形で触れているかどうかを見てきました。残業について記載がない求人も分母に含めると、見えてくるのは選択的な沈黙であり、実際の残業時間が長い職種ほどその沈黙は深まります。では、企業が平均残業時間を具体的に開示する場合では、企業はどの数字を選び、その数字は時間とともにどう変わってきたのでしょうか。
「残業は月平均20時間程度」のように、求人本文に平均残業時間を数字で記載する求人は増えています。残業に関する属性を持つ正社員求人のうち、こうした数字を読み取れる求人の割合は、2023年の2割から2026年には3割へ上昇しました。
記載される数字は切りのよい値に集中しており、最も多いのは「月20時間」(記載時間が占める割合 34%)、次いで「10時間」(28%)、「5時間」(9%)が続きます。全体的に、記載の87%は20時間以下です。

職種別に見ると、求人に記載された残業時間は実態とおおむね整合しています。2023年と2026年1〜7月を、カテゴリ内の職種名の構成を2023年で固定して比較すると、記載時間が最も長いのはドライバーと運送で月約25時間です。中位には建設、小売、営業、倉庫、製造などが並び、看護、介護、保育、医療技術は6〜10時間程度で下位に位置します。
つまり、前節で見た非対称性のように、労働時間の長い職種ほど残業時間を開示しない傾向があるものの、企業が数字を書く場合においては、概ね実態に沿った時間で書いていると見られます。

「2024年問題」の対象業種だけが動いたわけではない
2024年4月の残業上限規制の適用拡大は、建設業と自動車運転業務、そして医師に及びました。これは、規制が求人上の情報発信を変えたかどうかを見る自然な材料になります。
ここでは、平均残業時間を数字で記載する正社員求人のうち、「月20時間以下」と記載している求人の割合を確認します。その指標でみると、建設では適用前1年間の73%から2025年半ばには87%へと上昇し、「30時間以上」の記載は5分の1から4%へ縮小しました。一方、同じく規制対象の運送は60%前後で大きな変化がなく、規制対象外の看護はほぼ100%で横ばいです。
建設だけを見れば、2024年問題の規制の効果があったようにも見えるかもしれません。しかし、そう解釈するのは早計なように思えます。建設での残業に関する言及は規制が及ぶ2024年よりも前から動いていました。残業時間の記載のある求人のうち「20時間以下」の割合は、2021年の6割弱から2022年末には75%前後まで上昇し、この間ブルーカラー職の対照群は80%台で横ばいでした。その後2023年は足踏みし、2024年4月の適用拡大後に再び上昇して88%に達しました。この後半の上昇も建設に限ったものではありません。すでに規制下にあったブルーカラー職の対照群も同じ時期に79%から86%へ上がり、規制対象外の職種でも残業への言及は増えていました。同様に、同じ規制対象である運送でも、求人内の「20時間以下」の割合は増えているわけではないことが確認されます。
このような点を踏まえると、2024年4月以降に、2024年問題として規制対象業種だけが他業種より目立って低残業を打ち出すようになったようには確認されません。むしろ自然なのは、「2024年問題」が規制そのものというよりニュースとして機能し、規制の空気に敏感な企業や、残業の少なさを採用上のアピール材料にしたい企業が、規制対象かどうかに関わらず残業に言及するようになった、という見方です。残業20時間未満の言及割合が規制対象業界問わず2024年から加速したと考えられます。

方法
分析対象は、Indeed上の日本の求人のうち、2019年1月から2026年7月までの掲載分である。第1節では全体像を把握するため、雇用形態を限定せずに集計している。これに対し、第2節以降は、特に断りのない限り、正社員かつ月給または年収表示の求人を対象とした。すなわち、残業開示が特に重要となる雇用形態に焦点を当てている。
残業関連の開示は、構造化属性である「残業なし・原則定時」「ほとんどなし」「月平均20時間未満」「月平均20時間以上」への言及を用いて把握した。「ほとんどなし」は、求人に文字通り「ほとんどない」と記載されているものを指す。求人本文に平均残業時間の数字が記載されている場合は、その値を抽出し、対応する時間帯区分に分類した。
実残業時間は、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(BSWS)(2020〜2025年、職種小分類、一般労働者、企業規模計・男女計)による。Indeedの標準職種名とBSWS職種小分類は独自の対応表で接続し、職種レベルの相関はBSWSの労働者数で加重して算出した。
職種カテゴリ別の比較では、カテゴリ内の職種名構成を2023年のシェアで固定し、両期間に存在する職種名を2023年の件数で加重した。セクター比較では、平均残業時間を数字で記載する求人のうち、その値が「20時間以下」と記載する求人の割合を指標とした。建設・運送と、製造、設備管理、倉庫、機械工学、さらにプラセボとしての看護を比較している。設備管理と機械工学には法的に建設業に属し、2024年4月の適用拡大の対象でもある職種が一部含まれるが、これらを除いても結果は大きく変わらないことを確認している。また分母の取り方を変えても、建設が上昇し、運送の変化がより緩やかであるという定性的な結論は変わらない。