キーポイント

  • 2021〜2025年の最低賃金引き上げは、47都道府県平均で年4.4%(検索数加重平均)。各年の改定後、求人の掲載時給の下位10%点は約4.6%上昇し、求職者が検索時に設定する希望時給は1回の改定あたり平均約1.5%上昇した。
  • 企業側の対応は速く、施行月までに新しい最低賃金を下回っていた求人のほぼすべてが賃金を引き上げた。掲載時給の下位10%点は約4.6%上昇し、新しい最低賃金の10%上まで賃上げが波及した。
  • 早く動いた求人には、応募を集めるうえでのメリットがあるように見える。施行前に新しい最低賃金まで賃金を引き上げた求人は、発表後から施行までの期間に、まだ対応していなかった同程度の求人より平均約61%多くの応募を集めた。施行後に掲載が続いていた求人の中では、早く動いた求人は約2倍の速さで掲載を終えており、より早く充足したとみえる。この応募の差は、市場全体が追いつくにつれて縮小した。
  • 求職者の対応はより緩やかだった。推計では、施行日までに希望時給に新しい最低賃金を反映していた求職者は約10人に1人にとどまり、多くはその後2〜3か月かけて追いついた。この時差は賃金そのものを変えるものではないが、求職者がどの求人を比較するかには影響しうる。

2026年9月3日、厚生労働省は47都道府県すべての地域別最低賃金の答申額を公表しました。全国加重平均は現在の1,121円から56円上がって1,177円となります。これは、1978年度に現在の目安制度が始まって以降、2番目に大きい引き上げ額です。引き上げ額は都道府県によって54円から65円の幅があり、新しい水準は10月から12月にかけて、地域ごとに異なる日付で順次発効します地域ごとに異なる日付で施行されます。

日本では最低賃金が都道府県ごとに設定され、そのスケジュールも事前に公表されています。7月下旬に国の審議会が法的拘束力のない目安額を提示し、それを受けて8月中に各都道府県の審議会が独自の金額を決定します。新しい最低賃金は10月から施行されるため、施行の数週間前には金額が公表され、報道されることになります。。

最低賃金の引き上げペースは近年速まっています。2021〜2025年は年平均4.4%と、2010年代の年2〜3%を上回りました。今年の引き上げ率は約5%です。政府は全国加重平均1,500円を2030年代前半のできる限り早期、遅くともその前半に実現する目標を掲げています。

この規模の引き上げが毎年続くと、重要になるのは、新しい最低賃金が市場の両側で提示される賃金、つまり企業が提示する賃金と求職者が求める賃金の双方をどのように動かすのか、そしてその変化にどのくらい時間がかかるのかという点です

Indeed Hiring Labの新しい分析では、235件の最低賃金改定イベントとともに、Indeed Japanの日次データを追跡しました。その結果、労働市場の両側には明確な違いが見られました。企業は数週間で対応する一方、求職者の調整には数か月かかります。

企業は速く対応:賃上げは最低賃金の少し上まで波及

企業側の調整は速く、ほぼ完全でした。施行1か月前の時点では、時給求人の約3分の1が新しい最低賃金を下回る賃金を掲載していました。施行月には、その後も掲載が続いていた求人の99.7%が、新しい最低賃金を上回る水準まで賃金を引き上げていました。求人の取り下げが通常より増えたわけではなく、掲載の入れ替わりもおおむね通常の範囲でした。

この変化は、賃金分布の下位で特に明確に見られます。掲載時給の下位10%点は施行月に約4.6%上昇し、最低賃金の平均的な引き上げ幅のほぼ全てが反映されました。

賃上げは新しい最低賃金の水準で止まったわけではありません。新しい最低賃金を下回っていた求人は、施行後半月以内に掲載賃金を平均4.4%引き上げ、差を埋めました。すでに新しい最低賃金の10%上までの賃金を提示していた求人でも変化が見られ、約8件に1件が賃上げされ、帯全体の平均では0.6%上昇しました。新しい最低賃金の10〜30%上の求人では0.2%の上昇にとどまり、それより高い賃金帯では変化は見られませんでした。

この波及は、最低賃金の近くで仕事を探す求職者が多く見ている賃金帯におおむね及んでいます。これが、最低賃金の引き上げが求職者の希望時給にも影響する一因と考えられます。

施行後0.5か月までの同一求人内の掲載時給の平均変化率を、施行1か月前の掲載時給と新しい最低賃金(施行後の水準)の比較で区分した棒グラフ。新たな最低賃金を下回る水準の求人では賃金が平均4.4%引き上げられた一方、新たな最低賃金を上回る水準の求人における引き上げ幅はそれより小幅にとどまる。
施行後0.5か月までの同一求人内の掲載時給の平均変化率を、施行1か月前の掲載時給と新しい最低賃金(施行後の水準)の比較で区分した棒グラフ。新たな最低賃金を下回る水準の求人では賃金が平均4.4%引き上げられた一方、新たな最低賃金を上回る水準の求人における引き上げ幅はそれより小幅にとどまる。

希望時給は「発表」の段階から緩やかに上がる

Indeedでは、求職者は検索時に希望する最低時給を設定できます。この検索時給は数年来上昇傾向にありますが、最低賃金の引き上げ後、この希望時給は平均で約1.5%上昇します。

上昇が始まるのは施行日ではありません。都道府県の審議会が改定額を発表した頃、まだ賃金も求人も新しい水準になっていない段階から動き始めます。発表が一部の求職者に届いている、ということです。

もっとも、この段階での反応は小さいものでした。施行前週の時点で、希望時給の上昇は約0.2%にとどまり、10週後の水準のほんの一部でした。発表は調整のきっかけにはなりますが、全体の上昇幅の大部分を説明するものではありません。

反応の大きさは、最低賃金に近い水準で仕事を探している求職者に集中しています。時給で仕事を探す求職者の約半数は、最低賃金の10%以内に希望時給を設定しています。一方、最低賃金を大きく上回る水準で探している人の希望時給はほとんど動きません。そのため、平均1.5%の上昇の大部分は、最低賃金に近い水準で探している層によるものです。全体では、最低賃金の引き上げ幅の約6割が希望時給に反映されています。

最低賃金の施行週を基準に、求人掲載賃金の下位10%点および求職者が希望する時給(いずれも週次)について、最低賃金が与える影響の変化率を並べた折れ線グラフ。求人の掲載賃金は施行直前の数週間まではほぼ動かず、施行時に速やかに賃金改定される。都希望時給の上昇は基準週より前に始まり、基準に向かってマイナス側から緩やかに立ち上がる形で表れる。
最低賃金の施行週を基準に、求人掲載賃金の下位10%点および求職者が希望する時給(いずれも週次)について、最低賃金が与える影響の変化率を並べた折れ線グラフ。求人の掲載賃金は施行直前の数週間まではほぼ動かず、施行時に速やかに賃金改定される。都希望時給の上昇は基準週より前に始まり、基準に向かってマイナス側から緩やかに立ち上がる形で表れる。

企業は数週間、求職者は数か月の調整

最低賃金の改定を、掲載時給あるいは希望時給に反映するまでの速さには、企業と求職者の間で大きな違いがあります。同一の求職者の希望時給の動きから推計すると、施行日までに新しい最低賃金を反映できていた求職者は約1割にとどまり、残りの多くは、施行後の2〜3か月で追いつきました。

これは、企業が求人の掲載賃金を引き上げた後、求職者の検索結果にも新しい賃金水準が現れるようになることと関係しています。

この調整の速さをモデルで推計すると、最低賃金額の発表期間中(施行前)は、まだ希望時給を更新していない求職者100人のうち、1週間あたり約2人が新しい最低賃金を反映していました。一方、施行後、施行後に企業側の賃金改定が検索結果に反映されるようになると、その割合は週あたり約15〜29人に上昇しました。これは、発表期間中の約10倍の速さです。

このパターンは、求職者が新しい最低賃金を知るうえで、最初の発表よりも、仕事を探す中で目にする求人等の賃金情報が大きな役割を果たしている可能性を示しています。

このタイムラグは重要でしょうか。賃金そのものに関しては、問題ありません。求職活動時に希望賃金として入力した額にかかわらず、労働者は施行日から新しい最低賃金を受け取る権利があるからです。しかし、求職・マッチングのプロセスにおいては、このタイムラグが影響を及ぼす可能性があります。

希望時給は、求職者が市場を見るための一つのレンズとして機能します。希望時給をまだ更新していない人は、前年の最低賃金を基準に求人を絞り込み、比較し続ける可能性があります。その結果、求職者が想定する賃金水準と、企業が提示する賃金との間に差が生じる可能性があります。

モデルによる試算では、仮に公的な発表が、賃金を改定した求人と同程度により効果的に情報を届けられれば、施行前に約3分の2の求職者が希望時給を更新すると推計されます。その場合、求職者が新しい相場で探し始めるタイミングは、最大で10週間ほど前倒しされる計算です。

新しい最低賃金への求人側の改定済み割合(実測)と、それを希望時給に反映済みの求職者の割合(推計)を並べた折れ線グラフ。求人側は施行月にほぼ完了する一方、求職者側は施行前週で約1割にとどまる。
新しい最低賃金への求人側の改定済み割合(実測)と、それを希望時給に反映済みの求職者の割合(推計)を並べた折れ線グラフ。求人側は施行月にほぼ完了する一方、求職者側は施行前週で約1割にとどまる。

応募は減っても、「諦め」を示してはいない

引き上げ後、応募は約14%減りました。この数字だけを見ると、賃金への期待が高まったことで仕事探しを控えるようになった可能性も考えられますが、個人レベルのデータは異なる姿を示しています。

第一に、探し続けている求職者の応募活動は、ほとんど変わっていません。集計の減少のほとんどは誰が仕事を探しているかという求職者の構成の変化によるものでした。仕事探しをやめた求職者は、もともと応募数が多い傾向にありました。したがって、これは「諦めた人」の像よりも、仕事が決まって検索を終えた人を含む求職者プールの入れ替わりを示唆します。

第二に、仕事探しを続けた求職者の応募先は、より高い賃金帯へ移りました。新しい最低賃金を下回る求人への応募割合はおよそ半分になり、その分、新しい最低賃金から10%上までの求人への応募が増えました。この変化は、求人の掲載賃金が新しい最低賃金に合わせて調整された動きとほぼ同じ、あるいはわずかに先行していました。求職者が仕事探しそのものをやめたというより、応募先をより高い賃金の求人へ移したことを示す動きです。なお、残る「新最低賃金未満」への応募のほぼすべては、最低賃金がより低い他県の求人(応募先の県では最低賃金以上の合法な掲載)への県境をまたぐ応募で、自県内の下回り求人への応募は施行後ほぼ消滅します。

第三に、求職者は、自ら設定した希望時給に沿って応募先を変えていたと考えられます。求人を完全に遮断する壁というよりも、仕事を探す際のフィルターとして機能します。求人アラートやレコメンデーション、希望時給を設定しない検索などを通じて、基準を下回る求人が目に入ることもあります。それでも、希望時給が単に画面上で上がっただけであれば、同じ求人への応募が続き、基準を下回る求人への応募割合は機械的に上昇するはずです。実際にはそうならず、希望時給の上昇に合わせて応募先も変化していました。

最低賃金改定ごとの、改定後の最低賃金に対する提示賃金の水準別の応募シェアの変動。改定後の最低賃金を下回る求人への応募シェアは約5ポイント低下し、その大部分は、改定後の最低賃金から同賃金を10%上回る範囲の賃金を提示する求人へと移行。
最低賃金改定ごとの、改定後の最低賃金に対する提示賃金の水準別の応募シェアの変動。改定後の最低賃金を下回る求人への応募シェアは約5ポイント低下し、その大部分は、改定後の最低賃金から同賃金を10%上回る範囲の賃金を提示する求人へと移行。

1,500円の最低賃金が求職者と企業に意味すること

1,500円という目標に仮に2030年までに到達するには、今年の1,177円から年約6%の引き上げが必要になります。これは、過去5年の年平均4.4%を上回るペースを、さらに数年続けることになります。

今回のモデルに、年6%の最低賃金引き上げを当てはめると、求職者の希望時給は1回の改定あたり平均3.6%上昇すると推計されます。これは、最近の年4.4%の引き上げペースを前提とした場合の2.6%を上回ります。上昇の多くは、最低賃金の近くで仕事を探す求職者の大きなグループによるものです。希望時給の調整には、これまでと同様に2〜3か月程度かかると推計されます。

この規模で最低賃金の引き上げが繰り返されると、企業が求人に掲載する賃金だけでなく、求職者が仕事を探す際に基準とする賃金水準にも影響が及ぶことになります。

 現行ペース(平均4.4%)と1,500円目標を2030年までに達成する場合の年6%ペースのそれぞれの下での、希望時給の推計経路を比較した折れ線グラフ。調整の形とスピードは同じで、規模が引き上げ幅に応じて拡大する。モデルに基づく試算であり、実測値ではない。
 現行ペース(平均4.4%)と1,500円目標を2030年までに達成する場合の年6%ペースのそれぞれの下での、希望時給の推計経路を比較した折れ線グラフ。調整の形とスピードは同じで、規模が引き上げ幅に応じて拡大する。モデルに基づく試算であり、実測値ではない。

こうした引き上げが続けば、求職者と企業の双方への影響も大きくなります。

求職者にとって、最低賃金の改定は最低賃金水準の求人に関連する賃金だけでなく、市場全体の相場にも影響します。たとえば最低賃金が毎年6%ずつ上昇する場合、希望時給を1年間更新しなければ、その希望時給は新しい最低賃金に対して6%低い水準になります。毎年秋の最低賃金改定に合わせて希望時給を見直すことは、新しい市場水準を基準に仕事探しを始めるシンプルな方法です。

採用企業にとっては、毎秋に賃金の見直しが必要になる求人の範囲が広がります。応募は新しい最低賃金のすぐ上の賃金帯に集中するため、前年の水準のままの掲載は、希望時給を更新した求職者にとって相対的に競争力を失う可能性があります。新しい最低賃金の少し上の求人では、平均的な賃上げ幅が比較的小さいことを踏まえると、賃金をもう一段引き上げられる採用企業には、採用で求人を差別化する余地があります。

早く動くことは採用上のメリットがあります。施行前に新しい最低賃金まで賃金を引き上げた求人は、発表後から施行までの期間に、まだ対応していなかった同程度の求人より平均約61%多くの応募を集めました。施行後も掲載が続いていた求人の中では、早く動いた求人は約2倍の速さで掲載を終えていました。この差は発表とともに広がり、施行前の1か月にピークを迎え、市場全体が追いつくにつれて縮小しました。

方法

本分析は、2021〜2025年の47都道府県における235件の最低賃金改定を対象に、Indeed Japanの日次の求職・求人データを使用している。

最低賃金改定の前後で、企業の掲載時給と、求職者が検索時に設定する希望最低時給がどのように変化したかを追跡した。1週間単位のイベント時間を用いた積み上げ差分の差分法により改定前後を比較している。また、同一求人を時間を追って追跡することで、最低賃金の改定に対して企業がどのように賃金を調整するかを分析した。

求職者の希望時給がどの程度の速さで変化するかを調べるため、個人求職者レベルから得られた約50万件の観測数を使用している。モデルから、各時点で新しい最低賃金を希望時給に反映している求職者の割合を推計している。また、掲載賃金の変化が求職者の応募先にどのように表れるかを分析している。詳細はAoki (2026), “What Workers Ask for: Minimum Wages, Information, and Reservation Wages in Japan”。